マリア様がみてる シリーズ(今野緒雪集英社コバルト文庫

一部オタクサイトで昨年辺りで急激に人気が広まった、カトリック系女子高を舞台にした学園コメディシリーズ。
自分の巡回していたサイト等で話題になっていたし、友人にも嵌った人間がいたのですが、最近になってようやく読む機会をもちました。
とりあえず既刊分14冊、読んだところの感想。
学園コメディとして、素直に、一気に読破してしまうくらいに面白かったです。
少々残念なのは、物語を通して描かれたメイン主人公である祐巳の成長が、あくまで“祥子の妹”としての成長であり、“紅薔薇さまになる為の成長”ではなかった点でしょうか。
この点は、同じようで異なると思うのです。
“祥子の妹としての成長”は、“祥子&祐巳の関係に絞った話”であるのです(主に「レイニーブルー」とか)。
じゃあ、つまらなかったのか?
かというと、そういうわけではなく。
むしろ秀作であり、全編通して楽しく読みました。先にも述べたとおり面白かったです。
しかし何より感心したのは、この作品独自のシステムである「姉妹(スール)システム」が実に良くできていて、この作品の中核をなしています。

◆「姉妹(スール)」の正体

そもそもリリアン女学園高等部に存在する姉妹(スール)と言うシステムは生徒の自主性を重んじる学園側の姿勢によって生まれたといえる。
・・・(中略)・・・
自分たちの力で学園生活を送らなければならなくなった時、姉が妹を導くごとく先輩が後輩を指導するという方法が採用された。
・・・(中略)・・・
最初は広い意味で先輩後輩を姉妹(スール)と呼んでいたが、いつの頃からか個人的に強く結びついた二人を指すようになっていた。_____(「マリア様がみてる」16Pより)

作中でも上記のように描かれているとおり「姉妹(スール)=親友」でも「姉妹(スール)=恋人」でも有りません。
ではこの作品における「姉妹(スール)」の関係は一体何なのか?
“姉妹(スール)”は上記の引用文で説明されているとおり“個人的に強く結びついた先輩後輩”のことを指します。姉妹(スール)は親友よりも恋人に近い信頼関係と親愛の念を持っています。
これは(キスさえ有り得ない程)低年齢向け恋愛作品における「肉体関係を一切介入させない恋人関係」に極めて近いといえるでしょう。
しかし恋人ではありえない。
かといって、登場人物らは厳密には百合の世界の住人ではありません。
きちんと異性を意識する社会常識のある存在として設定されています(作品の性質と(多分)対象読者の都合上、異性との交友関係が描かれることは、ほとんどありませんが)。
つまり、祐巳にとって“姉”は恋人ではなく“親愛なるお姉さま”であって、異性への愛情の代償行為なのです。
実際、作品の文法上では「姉妹」という関係は恋人関係の代償として存在しており、シリーズの多くのエピソードは、少女漫画の恋愛モノを髣髴とさせる展開をしています。
だから、厳密じゃなくジャンル分けするなら、
学園ラブコメ
ということになると思います。

◆「じゃあ、普通の共学校を舞台にしたラブコメと同じじゃないか?」

私も始めそう考えたのですが、実は「姉妹制度」には従来の学園ラブコメの恋人関係では有り得なかった素晴らしい特徴を備えているのです。それは“肉体関係を描けない”という表現上の制約*1を差し引いても余りある特性なのです。

◆受け継がれて行く「姉妹(スール)」の関係

先に述べた通り、先輩後輩が「姉妹(スール)」の関係を結ぶことになるのですが、それは二人の関係のみに終始するわけではありません。
「姉妹(スール)システム」が「先輩が後輩を指導して行く為に生まれたシステム」という性質を持つ以上、その姉妹の妹は上級生になると、さらに下級生の中から妹を持つ事になるのです。
そして、その新しい妹が進級したら、また新しい妹を。その新しい妹が進級したら、そのまた新しい妹を、と言う風に。
つまり、学園行事(つまり『物語上のイベント』)をこなしていき、作品世界の時間が経過すれば、必ず新しい姉妹(スール)が誕生していくのです。*2
これが従来のラブコメの男女関係ならどうだろうか?
男女一組のカップルが誕生すれば、その内の男側にも女側にも新しい彼女や彼氏の誕生は有り得ないし、誕生したとすれば、それは只の浮気だ(無論、例外はある)。
しかし、「姉妹(スール)」は恋人関係に極めて近くても、そうではない。
だから、有り得ても良いのだ。
毎年新しいカップルが誕生していくのが約束されていると同時に、一度カップルになった片方のキャラに、新しい恋人が誕生する。それも「浮気」だの「別れる」だのという面倒なイベントを無視して、だ。
恋愛モノで一番おいしい部分の一つ、カップルの成り染めが永遠描かれ続けられる。素晴らしいではないか。
また、魅力的なキャラクターを新たなカップル作りに使いまわせる、という利点も有る。
この永遠と続く楽しい学園生活を支える「姉妹(スール)」システムこそ、「マリア様がみてる」シリーズの人気を支える最大の要因の一つだと思うのです。

*1:“肉体関係を描けない”という表現上の制約…もともと問題ないという説もある

*2:余談ですが、厳密に作品設定で“学園生徒が必ず姉や妹を持たなければいけない”とはなっていない。しかし、主人公を始めとする主な登場人物達は生徒会役員であり、「生徒会役員は自分の妹に生徒会の役職を受け継がせる伝統がある」と、理由付けされている。故に必ず新しい姉妹が誕生する